夢見る力

昨日は日本語科2年3年生を連れて、東風HONDAの自動車工場見学をさせていただいた。これは元々キャノン武漢支社長Tさんが武漢には、キャノンの工場がなく見学ができないからとHONDAをご紹介くださり実現したものだ。まずここにあるご厚意に感謝したい。
キャンパスからチャーターバスで1時間半ほど、漢陽の武漢経済開発区にある東風HONDAへ向った。引率は私と3年担当Z助教授それから若いY先生。天気もよく、午後の光がやさしく、バスの中の学生を照らす。
日頃、大学の中だけで生活し外に出ない学生達にとってはちょっとした旅行気分だ。わたしにとっても中国での日系企業の工場見学は初めてだ。経済開発区にはシトロエンなど外国の自動車工場もあり、そういう意味では千葉や川崎などの日本の沿海工場地帯ともどこか似た風景だ。
見学内容は研修センターでの会社紹介、車体組み立て工場見学、研修センターに戻っての質疑応答、敷地内移動時間をあわせて2時間の見学だった。
東風HONDAは中国の東風汽車集団股份公司と日本の本田技研工業株式会社、本田技研工業(中国)投資有限会社の合弁会社で2003年7月設立、資本金2億米ドル、将来的には年間12-24万台生産を目指している。69万平方メートルの敷地に工場設備や研究開発棟、研修センターなど白く立派な各種施設が並んでいる。
説明によると開業より3年という短期間に毎年1万、2万、6万と飛躍的に中国内での生産販売台数を伸ばし、今年はCIVICが中国での顧客満足度NO1に輝き、世界のトップブランドにふさわしい事業をこの中国でも展開されている。組み立て工場内では各部門で作業効率改善のアイディアを討議、その共通理解のために貼りだすボードが並んでいる。そこには、メンバーの誕生日のお知らせなどもあり、従業員相互の関係を大切にしていることも伺えた。
音も静かで匂いも殆どなく、シートなど15キロ以上のものはロボットの手により着装が可能で、人にやさしく、かつ15箇所のミスのチェックシステムにより高品質車両を一日400台のレベルで生産してされているそうだ。
こうした静かな「緑色(エコ)」先進工場も印象に残ったが、やはり各企業の目指すところを聞くのは興味深い。HONDAの企業理念は「夢をみる力」。では、HONDAの夢とは何かと言うことについて3年生から質問が出た。
HONDAは創業者・本田宗一郎氏が自動車修理工場から始めた会社であり、そこからカーレースに出場できる性能のよい車作りを夢見、いまでは環境にやさしい自動車の創造と普及を目指し、中国ではユーロ3標準でよいところをユーロ4という厳しい環境基準をクリアした高品質車を生産している。中国で日中文化が力を合わせてこうした素晴らしい車を産み出し、多く使用してもらいたい、これが武漢・東風HONDAの夢です。
と財務部長Kさんが回答された。
他の学生からは人材育成計画や、むくつけくも給料がどのくらいかという質問もでて、私としては慌てたが、K財務部長そしてずっと後ろに立ったままやり取りを注視していらっしゃったM副社長からご回答があった。
具体的な技術的研修は初・中級といったレベルにわけ、OTJ形式および研修形式で行っている。そして運営方針に「3つの喜び」ということを掲げ、それは1.創る喜び 2.売る喜び 3.買う喜びであり、車一台作り上げる達成感、販売する喜び、買っていただいた人の喜びがある、人材の養成に当たってはその3つの喜びについて学んでもらうということであった。
給料についての質問に対しては、沿海地区などと比べると安いけれど、仕事の選択ということは給料のみで決められない、好きな仕事をすること、そして仕事の中に生きがいを求め、夢を追いかけること、そうしたことが大事だ。そんな話をしていただいた。
社会福祉の十全でない中国では、親孝行をするにも自分自身の生活を維持するにもお金は多ければ多いほどよく、また多くなければならない。そのため、中国の優秀な学生たちも目先のことを考えがちであるが、こうした日系企業ならではの考え方を聞いて、心の中に持ち帰ったものは小さくないだろう。
この見学を通して、本からの知識だけでなくもっと学ぶ必要があることを知ったと帰りのバスの中で目を潤ませていた女子もいるし、車好きの4年生が「好きなことをする人生にしたい」とホンダにアプライしたいと言っていた。
人生を渡っていくには理想だけでは難しく、学生たちの質問にお付き合いくださった、副社長、部課長の皆様もいろんな波を越えつつ中国に来られてからもそれは続いているだろうが、「夢想的力量(夢見る力)」がどこかでそのお仕事ぶりを支えていると感じられた。
 メールのやり取り一つをとっても本当にきちんとご対応くださった。キャノンのTさんもそうであるが、日本の一流企業の一流と言われる所以をご対応一つからも学ばせていただいたと想う。
年末のお忙しいところを本当にありがとうございました。
写真撮影は禁止のため写真はないが、ご説明いただいたことについて社外秘はないということであったので見学記として記します。