心に傘が必要な日

病院へはバスで50分ぐらいかかった。武漢大学人民病院。大きく立派な病院で、やはり診療棟と入院棟は全く別の建物。行ったことのない場所だったが、乗ったバスは案内の掲示もでなければ車内放送もない。運転手さんに、ついたら教えてくださいと言って座ったが、途中かなりディープな中国の街を通るし、少し落ち着かない。
彼女は恐らく日本語科でも1〜2を争うきれいな学生。いつも明るく可愛い彼女がドレーンをつけ、お母さんとおばあさんに付き添われて横たわる姿は、まるで美しい花が無残に折られてベッドに置かれたよう。お母さんから、「この子は武漢をご案内することを楽しみにしていたんですよ」とご挨拶いただいたが、まずは元気になってもらうことが先と胸が痛んだ。日本からのお菓子などを渡したら喜んでくれたが、帰りのバスの中でも人や車の行き交う街を眺めながらぼんやりしてしまった。 来週退院、1ヶ月ぐらい自宅療養の予定。
 帰り着いたら雨。校内のいつも電話カードを買う店に寄ると、傘を貸しましょうかと言ってくれた。「傘を差して自転車に乗れないので、でも、ありがとう」と答える。今日はそんな申し出が嬉しかった。