詩人田原


帰国中、ひょんなことから中国人の詩人の方・田原さんにお目にかかった。中国人として初めて日本語の詩が評価され2010年H氏賞を受賞されている。

毎学期のいっとうさいしょの授業のでは日本で撮ってきた写真を学生たちに見せ、日本のことを話すことを恒例としている。
友人と銀座で食事中、周りの人の携帯から聞こえてきた地震警報のこと、草間弥生の展覧会のこと、今年の残念は、例年1月下旬には咲く我が家の庭の梅の花が、寒さのためにこちらに間に合わなかったこと、などなど。

そして、中国人詩人の田原さんにお目にかかったことを話した。
田原先生は学生たちのために3篇の作品を選んで送ってくださった。「梅雨」と題する作品と「墓」そして「記憶」だ。

たとえば「梅雨」

梅雨
       
  垂直に落下する梅の香りは梅雨に濡れない
  風にたわむ傘の上で口ごもる雨の滴りは
  シルク・ロードを旅したがっている
  濡れたのは足元から消えた地平線だけ
  山は風のこだまを隠して
  スポンジのように雨水を貪婪に吸い込む
  木の葉は思いきり雨粒を浴びながら緑を深めていく
  空の奥にくすぶっている太陽はみずからの裸を待ちあぐむ
  かびが密かに月の裏側にはびこっていくうちに
  朽木はキノコの形を構想している

________________________________________________


わたしたちは、「風のこだまを隠して スポンジのように雨水を貪婪に吸い込む」山や、月の夜に密かに生えるかびやキノコの形を構想する朽木、などを想像してみた。
また、「墓」に描かれた「美しい乳房のように 大地の胸に隆起する」墓、「誰の足音かを聞き分け」ようと大きな耳になって地平線にたつ墓、そんなことも想像してみました。


そして学生たちは死の恐怖とか、想像できた美しい風景とかについて話してくれた。それは、今までの私の「会話課」では語り合ったことのない新鮮な時間。学生たちのみた大地の上の墓や月夜のキノコ。

「砂漠は駱駝の墓
 海は水夫の墓
 地球は文明の墓

 墓は死のもうひとつの形
 美しい乳房のように
 大地の胸に隆起する  ―「墓」より」


「神様の記憶は
 いつまでも無言の空のように
 真理が犯されても
 沈黙のまま      ―「記憶」より」


学生と一緒に、ことばと心の中に広がってくる大地を楽しみました。そして!学生たちにも自分の声を日本語の詩にしてもらおうと宿題にだしました。「えー、できませ〜ん、」と言う声に、いえいえ誰にも、最初の一歩があったはずです(笑)と。

私の学生のなかから第二の「詩人田原」が、生まれないとも限りませんよね!(笑)。どんな詩を書いてきてくれるかワクワク、楽しみ。


学生たちをいろんな世界につれていく授業。
久しぶりにみんなの元気な顔を見て、これからもそんな授業を増やしたいなと思いました。



田原さんの詩集「石の記憶」