熟成

mklasohi2008-10-14

今夜から一年生の日本語の授業も始まった。先週末、雨の中、友達を連れて武漢を歩いたので、やや風邪をひいたので仕事第一にとこのところ休息をとっていた。友人はヒューザー弁護団に入るような、お金儲けに走らない弁護士。

土曜の雨の後は、青空に恵まれ、黄鶴楼もまるで絵葉書版の写真になった。それでも私が好きなのは長江の波に光る風。そして久しぶりの旧友との思い出は何と言っても雨の中、武昌で見つけた造り酒屋の高粱のお酒のことだろう。
飲めない私だが、一年に何度か断ることのできない乾杯があるから、しかもそんなときに限って上質の白酒だったりするから、いつとは無く高級なお酒の味をちょっとだけ覚えた。
朦朧たる雨の中、怪しい通りの白土塀の造り酒屋。酒精でなければ飲んでみようとも思わないほどの汚いお店が目に止った。店に入るや、数個の何年も寝かせた酒樽があり、左側のタイル作りの竈まからは煙が上がっている。おばさんに「少しでも売ってくれるか」と聞くと、お客のおばさんが「売るのが商売」と代わりに返事をしてくれた。カップに取ってもらって1元。2人で分けつつ飲んだ。
う、うまーい。口の中に穀物の柔らかな味が膨らむ。きっと40度ぐらいはあるのだろうが、すこしもアルコール臭くない。寧ろお醤油蔵のような、微生物が熟成していく仕事のうまみの味がする。友人もびっくり。持っていたペットボトルにつめてもらって、寝酒にするという。飲まない私でさえ、これはぁと思う味なのだから、飲める人はまして況やだろう。どうしたらこんなお酒に出会えるのか。

その町の通り、数十年時が止っていたはずが、取り壊しも、もう数10メートルのところにまで及んでいる。次にはその店は姿を消しているかもしれない。その暗がりも、小ささも、程よい暖かい湿り気も、高粱を入れた足元の笊も、おばさんさえ、消えかけの幻のよう。1両12元の芳醇。
その夜、湖の傍のレストランで暗い波を見ながら、一緒に座興の詩を詠みつつ、12元の旨酒を取り出して飲んだ。
傾けるは金龍泉、食すは東湖の波
漂える旅人の心、もてなす旧知の情

 

戻れば友人の事務所からは東京タワーが見える。次の日、大学の中を歩きつつ、少々愚痴ると、青空の下やおら「○○のバカやろう」と代弁してくれた。「だって意地悪だもん」って、ありがとう。さすが代理人。呵呵大笑。