甘くてほろ苦い

お昼には北京の有名企業に勤める卒業生T君が大学に戻り連絡をくれ昼食をともにした。北京大学や清華大の修士や博士と混じって入社して7月で2年になる会社を辞めて日本に留学しようと考えているそうだ。しっかりした考えの下の選択だから、きっと一層大きく成長する人の通る道なのだろうと思う。
ちょっと仕事をして、その後、自転車で中南財経政法大学に行った。去年から財大の楊君とL君が財大の堕落街に案内してくれると言ってくれていたがタイミングが合わずにいた。
 校内で食事をご馳走になって、(今日こそはご馳走しますと誓っている二人)、次に堕落街も奥、なんだか聞くとラブホテルに相当するお宿の並んでいるあたりに、広東から来たデザート屋さんがあって、そこへ連れて行ってもらった。予想より比較的明るくて、お店もきれいだった。ご馳走になったのは、「特色亀ゼリー」。
スチュワーデスさんたちが香港で食べて有名になったあれですが、ミルク味のたれの中に松の実や小豆餡なども入っていて甘く、おいしい。亀ゼリーのほろ苦さとマッチして絶妙。
 学生たちをいろいろと遊ばせる店が並んでいるから「堕落街」というが、確かに大勢の学生で賑わう屋台、女の子のすきそうな小物屋さんや、ミルクティスタンド、カラオケなどが並んで、しきりと誘惑する。大学の図書館からは煌々と明かりがもれ、勉強にいそしむ学生たちもいることを思わせる。フェンス一つ隔てて甘く誘う街が広がっているのだ。
 ワンパといわれるインターネットカフェも多い。最大規模のワンパにも連れて行ってもらったが、PC設備は300台以上はゆうにありそう。一面の若者たち。小さいワンパに比べて、席の並べ方や内装もおしゃれで、めいめいがゲームをしたり映画を見たり好きに過ごしている。
 カラオケ屋さんに入ったけれども機械の都合が悪かったので、そのまま店を出て、L君が住む学生アパートを見せてもらった。街灯の乏しい道に店が何軒かあって、犬が暗がりからぬーっと現れてきて思わずびっくりする。小さい庭のある大家さんの母屋の隣にアパートが立っている。小さい庭には何かわからぬ庭木があって後ろに納屋のようなものがある。
 朧月夜の探検隊。昨日の30度がうそのように気温が下がっている。
彼らとは武漢に来たばかりの半年、7大学連合の副専攻の日本語クラスを担当して知り合い、その後、副専攻のクラスを持たなくなってからも、他大学生ながら、ちょくちょく電話をくれたり、思い出も少なからずある。
 L君は近々深圳に又就職活動に帰るが、おそらく6月の卒業式ごろまでは武漢には戻らず、もうほぼ卒業と同じようなものだ。巣立っていく人を見ると、楽しみな反面、寂しい思いも同時にする。お昼の北京のT君のようにきっとどこかで会える日もあるのだろうが…。
 朧月夜に3人で食べた甘くてほろ苦い亀ゼリー、この味はきっと忘れないだろう。