旅のことなど

mklasohi2006-08-28

武漢に戻る前に、上海、南京、蘇州に寄った。昨年のハルピンに続き、中国で働く者として日中の傷跡をきちんと見ておこうという気持ちがあったからだが、南京の大虐殺記念館は9月過ぎまで休館、蘇州の名園・拙政園も補修工事中、上海美術館も入れ替え休館中だった。これもきっと何かの思し召しなのだろう。
南京
南京は人が優しいことが印象的だった。
列車の中で安宿を紹介してくれた旅行社の人、晩御飯を食べに入った店で私たちの食べていた魚のペーストが入ったお好み焼きのような「小魚煎餅」が何かと聞いてきた隣のおじさん、携帯の充電器を買いに入ったたばこ屋くらいの小さな夜の「中国移動ショップ」のお姉さん、朝ご飯の店で大根の煮物を子どもみたいにそれはなあにと聞いた私(笑)に、結局おまけにつけてくれた阿姨(おばさん)、南京の大都市ぶりにびっくりする私に「中国の大都市の中でまぁ普通ですよ」と謙虚なタクシーの運転手さん…そんな人たちが、南京に対する緊張を解き、優しい思い出を残してくれた。
 記念館は休館中であったし、残虐行為が行われたという南京に流れる長江にも行けなかったが、1937年日本軍が南京を陥落、式典を行ったという中華門には行ってみた。南京の人たちはその時、日本軍入城の様子をどんな気持ちで見つめたのだろう。
 近代的な南京駅を一歩出ると眼前にいきなり大きな玄武湖が広がりその向こうにビルが立ち並ぶ。その風景もまた他に知らない。武漢と並んで中国の三大釜戸の一つだが、夏の盛りを越えて耐えられない暑さではなかった。

蘇州
水の都・蘇州、舟で30分ほど運河を回った。古い家並みはもとより、新しい居住用ビルまで白壁に黒か灰色の屋根で、景観が守られている。観光スポットを巡るバスも10分間隔であり便利だった。
 タクシーの中で流れるラジオで、10分ほど前に客から偽札をつかまされたと運転手さんが訴えているのを聞いたが、DJが「みなさん気をつけましょう、タクシーの運転手さんも楽じゃないですね」と締めくくっていた。逆もありえるということだから気をつけなきゃいけませんね。

上海
 上海は3回目。大学院を出たばかり昔と、去年2月武漢に来る直前に寄り、その変貌ぶりに驚いた。その時見た冬の姿から、同じ南京路も夏の姿はまた違って見えた。それにしても武漢に比べ洗練された街であり、宇宙都市的でさえある。どこを撮っても絵になる。入ってみたくなる珈琲店や美味しそうなケーキ屋さんもある(笑)。上海や大連などを見る限り中国が発展途上の国とは思い難い。
 今回の上海では、卒業生のH君に会って、日本の有名企業の上海オフィスもみせてもらったし、その頼もしい成長ぶりを見ることができ何より嬉しかった。架け橋の仕事をする人が増えた。
 その上海での忘れられないもう一つの出来事は、ホテルのボーイさんとのこと。どう処理すべきか迷ったが、わたしの手の中には20元札が残り、胸にちょっと痛む思いが残った。
 24日、家族を朝の8時にリムジンバスに送り、一人で多倫文化名人街に行った。魯迅郭沫若湖南省鳳凰出身作家・沈従文なども住んだことのある街。新天地同様、かなりおしゃれに整備された通りだ。多倫現代美術館という4階建の小さな現代美術館もあり寄った。
  
 その後「老電影」という古い映画を上映する珈琲店で、川の水の味のする上海ならではの珈琲(笑)を飲んで宿泊していたホテル・上海大廈に戻った(右上写真)。
 1934年に外国人長期滞在用に建てられたマンションで今はホテルになり、バンド側からの上海一の展望を誇るホテル。いつもは、中国の金銭感覚から離れた暮らしをするつもりがないので、食事なしで一泊800元もする(ウェートレスさんの一か月の給料を一晩で使うような)ホテルには泊まらないことにしているが、上海のオールドホテルはやはりそれなりにお金を出す価値があると思う。

しかし、眺めに寄りかかってか、章さんが予約してくれた蘇州のホテル(食事なしで600元ほど)のcozyなアメリカ式サービスに比べると荷物を持って行ってくれないなど劣っていた。
 預けていた荷物を受け取ろうとすると、キャリーケースの引き手が壊れている。ボーイさんは「ここが取れたけれど、テープを貼れば使える」、「弁償しろといわれれば弁償もするが、ひび割れがあるし、品質の問題」と言う。倒して壊れたことはボーイさんも認めている。が、一言も謝らない。これから武漢への道のりにどうやって帰るのか。セロテープでは無理だろう。ボーイさんでは埒が明きそうにないと思い、マネージャーを呼んでほしいと頼んだが、会議中ですぐには来られないという。その上「それはニセモノで、おんぼろだったし…」と言い出した。
 高級品ではないが、新品で、1回で壊れる粗悪品という部類でもない。しかも預けた時は、無傷だったのだ。ここまでくれば、私も黙ったままではいない。
 「これは新品です。ここは4星ホテルですよね。そんなホテルがお客に向かってこのような言い方をしてはいけません」星の多さはお客に提供するサービス代、ボーイさんが故意でないことはわかっているが、まるでチンピラのような言動が、ホテルをその程度に落とすことに気がついていない。
 インターネット接続も1分1元、サービス料も15%上乗せで、結局847元。もっと見晴らしのよい部屋は1000元以上要求している。見合う訓練されたサービスを提供すべきだろう。
 少し年上のボーイさんが聞きつけてやってきた。「たしかにこんな言い方はよくありませでした」、「中国ではボーイ個人が弁償します。20元で修理してもらえませんか」と提案してきた。20元で元通りになることはないだろうしボーイさん個人に何かしてもらうことを望んでいなかったが、なんらかの形で落着させるぐらいしか時間が残っていなかった。
 20元はボーイさんの一日の給料の大半だろう。双方にとって不幸な出来事だったと思う。でももし初めから一言謝ってくれていたら、マネジャーがさっと現われたなら、あるいは満足のいくサービスを受けていたなら、違う展開になっていたかもしれない。
 南京に向かう前、同じ上海のオールドホテルの一つランクの低いホテルに泊まっていたが、ボーイさんたちはよく動き、名前を覚えてくれ、ホテルを変る私たちを気持ちよく送り出してくれた。荷物を預かり、タクシーに運ぶことを自分の仕事として誇りを持ってやっている様子だった。
 
 それにしても、引き手のみ壊れたキャリーケースをいかんせん。1年使った携帯も調子はずれになってきたし、中国で物を買うのは難しいものです(汗)。