私はサッカーができます

今週から香港からの転入生が1年クラスにやってきた。はたきのようなボサボサ頭、カジュアル、でもどこか垢抜けていて素直なお坊ちゃま風。香港からとは初めてのパターン。やはり香港と本土との差を感じる。ところがなんとまだ「あいうえお」も分かっていない。1年生とはいえ、他の学生は勉強し始めて、半年以上になる。
今週初めは黒板に指導チームの順番が書き出され、全員での彼のバックアップ体制が整い、さすがここの学生たち、なんとかこれでいけるだろうと思ったのだが、2度目の今日は姿が見えない。朝から授業にでていないと言う。教室がわからないのかもしれないということだったので、携帯に電話をしてもらったら、5分ぐらいして現れ、ひょこっと頭を下げて一番後ろに座った。見ていると1人で「あいうえお」を書いていて取り残された様子。今日はどうして、他の学生がとなりで教えてあげていないのか。様子を見つつ、授業を進める。 学生たちのグループワークに入ったところで、隣に座ってどこまでできるようになったか、何ができないかをチェック。まだ音と字形が完全にはつながっていない。だから、単語レベルで読む練習とアクセントの取り方を教えてこんな風に勉強してねというと、にっこり。全体に戻ると、またひとりぼっちになっている。教科書ももっていないので、そうならざるを得ない。心優しい男子学生に本を見せるよう隣に座ってもらった。とにかくついて読んでみてね。簡単な病院会話もクラスメートが前に出て、演技を交えてやっているのを見ていれば、何かちょっと分かってくるはず。
 そして次の課の文法項目1は「名詞+が+できます」で「能力」を表す文型。これは他の学生も未習の文型なのだから、同じように代替練習を見ていれば理解できるはず。次々と発表していく。「わたしは水泳が…」「わたしはピアノが…」「わたしは…」彼の番になった。皆が心配そうに見る。「他不会(彼はできませんよ)」と言っている学生もいる。ううん。できるよ。ぜったい、できるよ。ほら、歩いてこっちに近寄って来てね。きっと歩けるから。だいじょうぶ。
「わ、わたし、は、サッカー、が、できます」初めてきいた彼の日本語。クラスメートから一斉に拍手が起こる。嬉しそうにはにかむ顔。
 信じる間合いに、人はちょっと成長するものだよね。