忘れもの

mklasohi2012-03-08

短期帰国の後の8時間の授業。さすがにくたびれました。
武漢の飛行場に着いて携帯に電源を入れるなり、お誘いのメールやら、新たな任務やら、一瞬のうちにして、武漢の日常。
今日も雨。からだを休めるのには良い雨の時間。

今回の記憶の中、あわただしい移動の中で、なぜか、いくつも同じようなものを見ました。夜の電車に乗ってふっと息をついた瞬間などに、まるで、ここ、と目が合ったかのように。
それは忘れられたもの。


東京、地下鉄の座席に残された毛糸の帽子、
乗り換えのコンコースにふたつながら落ちていた黒の手袋、
降り立った深夜の乗り降り駅フォームの長椅子の上の黒いマフラー。
武漢へ戻る日の成田空港トイレ手洗い場の鏡の前に残された黒い花模様のハンカチ。
なぜかどれも黒。日本人の好きな色というのか、冬の色なのか。

すべて、誰かを温め、誰かを快適にしたその人たちの所属品。


ここからはぐれてしまえば、もうその人たちを温めることはない。
待って、と声をあげているような。そんな瞬間の、残されて動けない物たち。


私は特段、それらを駅の落し物に届けるようなことはしなかった。
ほかの赤や黄色の冬の小物が詰まった大きなビニール袋に投げ込まれるより、このままに暫しとどまるほうが…
それさえ、考えなかったけれど。
人と物はこうやってはぐれていくのか。あるいは人と人もこうやってはぐれていくものなのか…。



さて、外の雨は小ぶりになったようです。
木の根が十分雨水を吸いこみ、次の晴れの日にはきっと、すこしずつ芽吹いてゆく緑を感じられることでしょう。