11月のプール

水面に光りが反射してゆらゆら揺れている。11月のプール、温水でも冷たく感じる。
中国で初めてプールに行った。街道口の交差点、新世界デパート対面の群光広場の裏あたり。さすがに章さんに連れてきてもらわなければこんなところに室内プールがあるというのは気がつきもしない。
水着を持っていなかったので、途中の武漢体育学院(大学)の前に並んでいるお店で買えばいいとなった。アディダスやナイキのマークのついたカッコいいお店がある。自転車をおりて、中に入ると、競泳用というよりおしゃれな可愛い水着がならんでいる。5割引になっているが、値段をみると300元とか400〜500元だ。いちばん高いのは780元。大卒でも1500元ぐらいのお給料が相場といわれる武漢で本当にこんな値段が付いているから驚く。これならプールでも買えるからと買わずに店を出た。
「四季遊泳館」。1階はボーリング場、2階は楽器のお稽古場。3階がプール。
受付のお姉さんの頭上にいくつも水着が飾ってある。50元ぐらいから60元程度。普通に日本でも皆がきているようなデザインだし、品質も悪くはなさそうだ。オレンジ色、左脇でしばるデザインの水着を指差して、サイズが合うかしらとお姉さんにきくと、ほとんど返事も面倒臭そう。自分で考えてみれば・・・とか、言ったきり、見せてくれる様子もない。
持参した水着を当てて比べてみればわかると章さんが、すみませんが、あれを・・・と言って下ろしてくれるよう頼むと、溜息をつきながらしぶしぶおろして、投げてよこす。
「どうでもよさそう!」章さんが日本語で私にいう。「ほんと、やる気ないね〜。」こういうときは日本語で語り合うに限る。58元を払って「袋をください」と言うと、目でカウンターの内側にあるビニール袋をまるで自分でとれといわんばかり。
あーたの方が近いよねぇ、どう考えても、それに、こっちはお客さんだし(目でものを言う)。ここまで来るとお笑い劇場のやりとりみたい(笑)。
更衣室、シャワーはその時間、まるで貸しきり。誰もいなかった。光るプールにも人は数えるほどしかいない。確かに11月の平日昼間に泳ぎに来る人は多くないだろう。
長いことゆれる水を見つめたまま、端っこでためらった。なんだか怖い。プールは2年前の夏、釜山のホテルで行って以来だ。10年前は30分かけてノンストップでゆっくり1kぐらい泳げた。4年ほど習ったので、一通りは泳げるようになって、長く泳ぐと途中で自分のボビングの音と水の中の透明な風景しか見えなくなるのが好きだったのに。
最後は、水に乗る感触が少しだけ戻ってきた。これから犬かき派の章さんにたまに教えてあげることになった。