停電の夜に

突然の停電。あたりが真っ暗。何の前触れもない。前の晩はとうとう熱をだしたが、火曜は朝から作文のテスト、続いて1年生の授業もあったので、熱なんかを出してはいられないと、部屋を暖め水分を補給して、薬を飲んで寝た。朝には出かけられるようになっていた。午後も3年生との新聞作りや、連絡など休む暇がない。風邪は振り払ったが、やはりアンニュイな気分のところ赤ん坊のカラスのようなふわふわ真っ暗な時間。
アメリカのマイノリティ作家ジュンパ・ラヒリの短編「停電の夜に」はとても好きな小説。東京の地下鉄の中で何気なく読みながら、結末に突然、涙が溢れて困ったことがあった。
停電。10分ほどで明るさが戻ったが、明るさの中に照らし出される日常より、音まで消えた停電の闇に慰められるような気がした・・・。
 ぼんやりした頭で、大学の時に習った司馬遷史記・刺客列伝にある言葉「士ハ己ヲ知ル者ノ爲ニ死シ、女ハ己ヲ説(よろこ)バス者ノ爲ニ容(かたちづく) ル」を思い出す。男は己を評価してくれる者のために命を落とし、女は己を愛してくれる者のために化粧をすると言った意味で、わたしは自分らしくあるために装い、評価のために命をかけないが、孤独な刺客たちの純度の高い仕事へのエネルギーを思うと圧倒される。
聶政は韓の宰相侠累を暗殺し、身元が知れてその罪が係累に及ばぬよう、自分の目をえぐり、顔の皮をはぎ、腹を割って自害した。なんという生き方死に方なんだろう・・・。