幽 黙

夜、並木道を自転車を走らせて帰る。やや霧がかかって、街灯もぼやけている。幽黙の世界? 先週もぐった講義も今夜で最終回ということなので行ってみた。
中国語では、ユーモアを「幽黙(ヨーモー)」と書きhumorの音訳だと辞書に載っている。ところが、この講義のテキストで知ったのだが、「幽黙」という言葉は中国にもともとある言葉で、古くは屈原が湖に身を投ずる前夜、故国を思って作った長編の詩「九章」の中、また李白の詩の中にもすでにあり、「静寂と沈黙」といったような意味なのだそうだ。どうりで初めて見た時、字面に違和感を覚えたわけだ。
作家林語堂(1895〜1976)が英語のhumorの訳語として何がふさわしいかと考えたとき、音が似ているこの言葉を思いついたらしい。友人でもある魯迅は当初この訳はふさわしくないと考えたようだが滑稽でも諧謔でもあらわせないhumorのよい訳が浮かばず結局「幽黙」で定着したという。
 一つ一つが表意文字である中国語は外来語の輸入が難しいとされているが、いわく、中国語の「幽黙」に喜劇性を注ぎ、英語のhumorに悲壮的色彩を添えた哲学的名訳…。
 思いもよらぬ文脈の中の「幽黙」や、「伊妹儿(イーメール)」、「鼠標(マウス)」といった言葉を昔の詩人が見たらなんだと思うかな・・鼠でしめす…?