遠くの大家さんより近くの隣人

飛行機は30分ほど遅れて、上海につきました。

飛行機の中で読んだ、劉建輝著「魔都上海―日本知識人の近代体験」講談社(2000年)のことでも書こうかなと思いきや、 空港からの地下鉄に乗り込むや始まる中国生活。

乗り換え駅で降りようとしても、降りる人の前に乗り込んでくる客の波に押し戻されるすごさ。キャリーケースをその流れに逆らい、う、うっと引っ張りながら、おもわず日本語で、「降りる人がさきでしょ!」とつぶやいたわたしでした。

武漢では空港からタクシーに乗り込むと始まる運転手さんとの攻防でしたが、それよりちょっとはましかな、ですが、なんというか2カ月東京でのほほんと便利な生活を享受していると薄まってくるサバイバル力が突然目が呼び覚まされた感じです。


家へたどり着く道中みたもの掛ってくる電話などなど書きたいところですが、圧巻は玄関ドアを開けてから。

ドアを開けると嬉しいかな漂うユーカリの香り。年末の空気のわるさに花屋さんで注文したもの。部屋中に香りがただよい、清潔感がある。が、ドアの横のスイッチをつけても「電気がつかなーい!」。そこから始まる、コメディ映画。


寒空の下、浦東に住むインテリ若大家さんに連絡を取り、かつ、お隣のドアをノックして訳をいい、見ていただく(ああ、また世話が焼ける外国人)。


電力会社に電話をかけてくださり、待つこと20分。期待のオートバイに乗った電力マンが現れました。各戸のブレーカ盤のあるところでお隣さんと修理のおじさんが上海語で話し、「何か」を上に持ち上げると家に灯りがパット灯る。(おそらく元栓みたいなものが落りていただけ)。
原因と修理代がいくらかをきこうとしましたが、お隣さんが、あんたはいいという手つきで、持っていたたばこを修理マンに一本さし出す。

うー、中国の「大人の男のしきたりだぁ」と思いつつ見ていると、お礼はそれでいいらしい。ヘルメットの灯りで修理のおじさんの顔が笑っているのが見える。
「何かあったらいつでも駆けつけますよ」、と一言残して、スーパーヒーローは去っていった…。


めでたしめでたしと、お隣にもお礼を言い、清潔なユーカリの香りの部屋に入ってほっと一息。荷物を置いて、にほどきを始め…
冷蔵庫を開け、買ってきた牛乳をいれようとしてうわ〜。
停電になっていた間、冷凍庫に入れてあったお肉や冷凍食品が腐ってすごいことになっている。とほほ。



お茶を飲む間もなく、冷凍庫の清掃、消毒…消毒には、白猫印の「消毒液」99%滅菌とか書いてあるヤツ。買っといてよかった。
で、夜は更けていく…。

戦いすんで、ほっと一息、あったかいお茶を入れようとすると、今度はガスがつかない!
またもや大家さんに連絡し…

どうも鍵を預けてた大家さんが気を利かせていろいろと元栓を閉めてくれていたらしい。


前の8年半は大学内のゲストハウス暮らしで、こういうことはすべて服務員さんや、修理の人が解決してくれたので、わたしの中国の「生活者」としての未熟も原因ですね。
電気に関しては、いいよまたやってあげますよというお隣さんに、電力会社の電話番号を教えてもらい、携帯に登録しました。

でも、きっとまたお隣さんたちに何かとお世話になりそうです。
遠くの大家さんより、近くの隣人。上海物語2014の始まりですね。


長い書き込みの最後に、
最初に戻って(笑)、「魔都上海日本知識人の「近代」体験」から、永井荷風の父・久一郎が上海で詠んだ漢詩をメモしておきます。
ここに詠まれた橋はバンドの蘇州河にかかる外白渡橋のことでしょう。近代上海の風景が浮かんできてさすがです。
上海に寄留した日本の作家たちの足跡などもたどりたくなりました。


滬上寓楼の壁に題す

橋影 高く跨ぐ 虹口の水
笛声 遥かに起こる 浦東の煙
杯を挙げて一笑すれば乾坤小に
門に泊す 俄英美の船