停電の夜に

mklasohi2013-09-13


停電の夜に、
というジュンパラヒリの短編小説があるけれど、今日は、新しい大学での最初の一週間を終えて、帰宅。アパートにたどり着くやダッーとにわか雨が降り出した。そして上海の空にも龍かと思えるほどの雷。雨や雷を避けられる家があることを幸いに思った。が、鳴り始めて間もなく、停電した。
早起きの疲れも手伝って、そのままソファに横になり、目が覚めるころには電気が戻っていることを期待しながら眠ってしまった。

目が覚めると辺りは、宵闇が迫り始めている。あれれ。
さすがにこれは何とかしなくてはと大家さんにメールを送った。返事を待つ間にも、あたりは暗さを増し、雷は少し小さくなったものの、まだとぐろを巻いて、ゴロゴロとうなり続けている。
外に出てみると、電気が消えているは我が家だけ。ヤンおばさんの家には煌々と明かりが灯っている。これは聞いてみようと、ドアをノック。
開けて出てきたのは、おばさんではなく、ヤン伯父さん?青緑色のパンツ一丁。きゃ〜。
でも、しょうがない。わけを話すと、わかったとばかりそのままスリッパをはいて、すたすたと部屋を見に来てくれた。
大家さんからも、「冷蔵庫の裏にブレカーがある」とメールが来たから、それを伝える。
しかし、やってみてくれたが違うようだ、と階下の壁の安全装置を見に行ってくれた。
パンツ一丁のまま、あちらこちら見てくれたが、どうにも戻らない。
そうこうするうちに大家さんから、「電気修理さんを頼んだから、しばらく我慢して待っていて」とメールが来た。大家さんは、浦東に住んでいて仕事もあるしすぐには飛んできてもらえないが、さすが若くして2軒の家を持つだけあって、対応は素早い。

ヤン伯父さんは、「わかんなくてすまんね」と言いながら、家に入って、丸くて赤い蝋燭を持って、出てきてくれたが、
自分の部屋の中は暗いので、明かりのある廊下で待つことにした。
すると、今度は4階に住む叔母さんが、どうしたの?と聞いてくれたので、わけを話すと、家へ来なさいよと誘ってくれた。


家はあんたんとこよりちょっと広いよここが台所。こちらにも部屋があって、こちらはと、指す先ドアが開いていて、30すぎの息子さんがシャワーを浴びなんとしている。Sorrry! なぜかでてきたのは英語。
居間では、ご主人がTVを見ていらした。こんばんはと声をかけたが、何があっても悠然として南山見ゆの感じ。

「息子はエンジニアだから、あんたのところの電気見させるよ」とおばさん。
電気屋さんも来るころかもしれないと思い、ごあいさつして3階に降りた。間もなく、先ほどの息子さんが、ズボンをはいて頭に、炭鉱夫のつけるようなカンテラをつけて降りてきた。なんだか本気。
私の部屋のブレーカーを見、やはり何ともないからとおばさんと一緒に階下のブレカーを見に行ってくれた。そして、間もなく、ぱっと部屋に明かりがともった。

カンテラの息子さんにお礼を言うと、にっこり笑って部屋に戻っていった。おばさんの方は、私にいろいろ質問。
あ〜、交通大で日本語教えている人なの。近いからね。そりゃよかった。この部屋、部屋代○○○元はするでしょう、やっぱりねぇ。いいえ、お礼なんて、ご近所さんなんだから困った時は、お互い助け合わなくちゃ、と。

このアパートは1958年に建てられた社宅。もとから住んでいる人と、改修後に、地下鉄にも公園にも近い環境を気に入って外国人も結構住んでいるということ。言葉が通じない青い目の外人さんより、日本人の方がいいと考える人は多いようだ。
実際、私が不動屋さんに連れられ見に来た時、フランス人と思しき若い女性二人も別の不動産屋に連れられてきて、気に入ったようで、いくらか聞いていたが、私に言うより500元値段が高かった。大家さんは英語が話せそうだが、不動産屋さんは、「日本人はきれい好きだから」と。みんなそう信じている。

この建物は古いけれど当時、上海一番の建築事務所が建てたものだから、物はしっかりしているということだった。お友達に時間をかければ、もっと古い洋館の一部屋が借りられると言われたけれど、仕事を始めるには時間はかけていられなかった。

国際サンダーバードの息子さんを飛ばしてくださったおばさんは、「じゃ、K老師と呼べばいいですね、私は高(ガオ)老師。高校の語文教師でしたよ。もう定年退職で、ずっと家にいるから、いつでも遊びにいらっしゃい」と。


停電の騒ぎのおかげで、もう一人お友達が増えた。遠くの大家さんより、近くの隣人。

明かりのついたキッチンに入ると、ヤン伯父さんがおいてくれた赤い蝋燭がチラチラと灯っていた。

真っ暗な中で、一時は途方にくれる思いだったが、
よき隣人たち恵まれたことを感じて、心がぽっと温かくなった。



写真は、記念に買った大学ロゴ入りカップとフェイスタオル。それから歩いてみた近くの建物。